インド仏教の歴史と日本仏教との違いを解説

インド仏教と日本仏教は、同じ仏教でも大きな違いがあります。仏教は、生まれた地であるインドから中国、そこから日本や西方へと伝播していきましたが、2000年以上の時を超えて、その教えは様々な人物の解釈を加えながら変化していきました。

また現代のインドにおいて仏教は、バラモン教の流れをくむヒンドゥー教やイスラム教に押されて少数派となっています。ここでは、インド仏教の歴史や特徴、日本仏教との違いなどを紹介していきます。

なぜ衰退したの?インド仏教の歴史

仏教が生まれたインドにおいて、現在、仏教徒は少数派であると聞くと不思議に思うかもしれません。

かつて仏教は、仏教が誕生した紀元前5世紀頃から紀元前3世紀にかけて、土着のバラモン教(古代のヒンドゥー教)に代わって国教へと成長していきました。世界最古の総合大学とされるナーランダ大学は仏教を学ぶ重要な場所で、数学や医学、天文学などの学問も発展しており、ここから中央アジアや中国、そして日本へと仏教が伝播していきました。

そんなインド仏教に大きな変化が起きたのはグプタ朝(320~550年頃)とパーラ朝(750~1162年頃)の頃だと考えられています。この時代にインドを訪れた中国の仏教徒が、出家した僧侶を意味する「僧伽」の減少を指摘するほどでした。
その原因としては、白フン族とも呼ばれる中央アジアの遊牧系民族エフタルの侵攻に加えて、僧侶や信者らが禁欲的な生活スタイルであったために社会や支配層への影響力が弱かったことなどが挙げられています。

さらに、12世紀以降のイスラム勢力によるインドへの侵出とムスリムの拡大、ヒンドゥー教のカースト制度がインド社会全体に広がったことなどから仏教が衰退していき、19世紀末にはほぼ途絶えたと考えられています。

ブッダはバラモン教の言葉を独自に解釈しており、換骨奪胎の達人です。ウパニシャッド文献での元来の意味を理解しておかないと、仏典での解釈を誤ることになります。

http://www.otani.ac.jp/syougai_g/nab3mq000000xcpc.html

インド仏教の特徴とは

インド仏教の特徴を一言で説明すると高度な教えにありました。修業によって得られた知恵を問題の根本とし、そこから「縁起と空の思想に加えて中道の立場」を重視する中観派と、「心を制御する精神集中や瞑想的な合一」を重視する瑜伽行唯識学派(ゆがぎょうゆいしきがくは) という2つの学派が生まれ、これはチベット仏教の基礎ともなっています。2つの学派は立場こそ異なりますが、互いに影響しあってインド仏教を発展させました。特に後者である瑜伽行唯識学派は、現代の”ヨガ”の起源ともなっています。

インド仏教における「空」とは、この世に存在するすべてのものは因縁によって生じ、普遍的な実体ではないのだという概念で、色即是空で知られる般若経でも有名です。
中観派では釈迦の悟りを「真諦」と呼んでおり、それらを言葉にしたものや経典を俗諦、中道を説くことを中論と言います。
インド仏教はかなり哲学的な内容であるため、当時のインドの人々にはとっつきにくかったかもしれません。さらに不殺生を重視するなどの禁欲的な生活スタイルだったことも知られています。

インド仏教と日本仏教の違い

インド仏教と日本仏教の違い

比較する時代こそ異なりますが、同じ仏教でもインドと日本では大きな違いがあります。まずインド仏教は中観論派と瑜伽行唯識学派の2大学派ごとに活動していたと考えられており、いわゆる宗派などがありませんでした。一方、日本では仏教が伝わってから多数の宗派が生まれ、それぞれに属する僧侶が中心になって活動していました。また現代では個人の思想や教えに基づいて活動するなど、古代のインド仏教とは活動形式が大きく違っていると言えるでしょう。この違いの背景には、インドのサンスクリット語の経典を漢字に訳した中国の儒教思想による影響があるとも指摘されています。

この他にもインド仏教には苦行や断食の否定、日本で多く見られる他力本願の肯定も指摘できます。死後の世界や輪廻転生といった世界観を否定するのも特徴となっており、時を経たり人物の解釈によって大きく変化していると考えられます。
もちろんインド仏教そのものも時代につれて変化しています。たとえばヒンドゥー教やイスラム教の影響を受けて密教が成立しており、これは中国や日本にも影響を与えました。

現代のインド仏教とは

19世紀末にインド仏教は途絶えたと考えられていますが、最近では少しずつですが復興しつつあります。1891年にスリランカ出身の僧侶アナガーリカ・ダルマパーラにより仏教が再移入され、1955年にはインド憲法の起草者にして初代法相であったアンベードカルが、ヒンドゥー教における被差別民であったダリットの人々ら約50万人とともに仏教に改宗しました。その後も差別を嫌ってヒンドゥー教から仏教への改宗する動きは続いており、2001年のインド政府の宗教統計では約800万人(インド人口の約0.8%)へと成長しました。

これに加えて1951年にインドに亡命したチベット仏教の指導者ダライ・ラマ14世の亡命政府のあるダラムシャーラーが、亡命チベット人らによるチベット仏教の活動拠点になっています。この他にもインドに帰化した元日本人僧侶佐々井秀嶺による布教や、日本の新興仏教団体のインド進出など、いわば逆輸入のような状態が起きています。

まとめ

インド仏教の大きな特徴としては学派ごとの活動があり、日本仏教のような苦行や断食、輪廻転生、死後の極楽浄土などは重視されていません。インド仏教と日本仏教は似ているようで異なる部分が目立っています。

かつてインドでは長い歴史を経て仏教が衰退し、19世紀末にはほとんど消滅していました。しかし現在ではスリランカからの移入やチベット仏教の拠点の誕生、日本からの仏教団体の進出により、仏教徒が少しずつ増えつつあります。
釈尊が仏教を開いてから約2500年の時が経ち、今、母国であるインドにおいて新たな仏教の展開が始まろうとしています。